なぜフィンランドか?
こんにちは。
学校向け職業講演会サービス”キッカケ”を運営している黒田です。
私は「社会を変えるには、社会を構成する人を育てる教育から」という思いと、子供たちが出会える選択肢の格差を解消するために、全国の学校に職業人を派遣する活動を行っています。
その活動をさらに進化させていくべく調査を進めていたところ、フィンランド教育やフィンランドの幸福度が世界一と言われていること、昔マイケルムーアさんのドキュメンタリーで見たフィンランド教育に1つの理想系を見出していたことを思い出しました。
そうなったらもうこんな疑問が湧きに湧いて止まらなくなり、
- 実際にどんな教育がなされているのか?
- 実際のところ先生や生徒はどう思っているのか?
- 本当に世界一なのか?
- 日本に持ち帰れるヒントはあるのか?
これらの疑問を一挙に解消するには、「現地に行って自分の目で確認し、現地の先生や生徒に話を聞いていくしかない!」ということで、2023年8月にフィンランドの複数の学校への視察を行いました。
調査内容
私の調査テーマは、フィンランドと日本の学校や授業、指導方法の違い、また先生の働き方やキャリア教育の違いを現地の先生へのインタビューや視察を通じて理解することでしたが、
今日はその中から”キャリア教育”に関する両国の違いについて、調査結果を皆さまと共有したいと思います。
現地に行って生の声を聞かないと見えてこない内容も多くありますので、ぜひ最後まで読んでいってください。
フィンランドと日本のキャリア教育の違い
私なりの視点からフィンランドと日本のキャリア教育を見た時に、5つの大きな違いがありました。
- (+)入試制度や学校制度の違い
- (+)受験に対する社会の考え方の違い (苛烈な競争がない)
- (+)キャリアカウンセラーの存在 (必要不可欠)
- (+)職業訓練学校の存在
- (-)社会的な保守性と子供たちの自殺率 (ジェンダー/高卒試験)
*フィンランドの良かった部分は(+)、そうでもないものは(-)と記載しています。
それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 入試制度や学校制度の違い
フィンランドでは、義務教育の年数や教育の捉え方が日本とは大きく異なります。
【図解】フィンランドの教育制度
画像の通り、フィンランドでは日本でいう小中だけでなく高校までの12年間が義務教育になっています。もちろん無料です。ちなみにフィンランドは大学も無料、あらゆる職業のスキルが習得できる職業訓練学校も無料とノーリスクでキャリア形成、キャリアチェンジできる環境が揃っていました。本当に羨ましい、、、
高校については、日本のようにほぼ自動的に卒業できる訳ではなく、全ての子供たちが高校卒業試験をパスする必要があるため、義務教育を卒業している人間の教養が一定担保されるような仕組みになっています。もちろん日本でも赤点の補習をしたり、出席が足りず留年したりする場合はありますが、明確に全国統一の卒業試験があることは大きな違いです。基礎教育の前にプレスクールが1年あるのですが、私たちが視察に行った学校では小学校と併設されていることが多かったです。
高校段階も特徴的です。日本だといわゆる普通科の高校に行く人が大多数ですが、フィンランドでは半数程度の割合で、職業学校に進学します。職業学校については後述しますが、フィンランドのあらゆる職業に対して設定された資格を在学中にとりながら企業での就業経験も積んでいくような学校になるので、卒業した時点で即戦力で企業に就職していくことができる仕組みなっています。また、職業学校の後に大学に行くこともできます。
教育制度の違いまとめ
- フィンランドの場合
- 私立学校が存在しない、高校卒業試験以外には基本的にテストはない。
- 中学を卒業するときに、半々程度の割合で職業学校か高等学校を選ぶ。
- 基本的には自分の希望する進路に合わせて選ぶが、多少勉強のできる子が高校、勉強があまり好きではない子が職業学校に行きがちなバイアスは感じた。
- 職業訓練学校を出れば就業経験も合わせてしっかりと手に職をつけられるので食いっぱぐれづらい仕組みになっており、卒業後に大学進学もできるのでリスクも少ないと感じた。
- 日本の場合
- 中学を卒業すると99%の生徒が高校に進学し、そのうち55%が大学や短大に進学
- ”大卒”や”新卒入社”が社会に出るチケットのようになっており、”とりあえず高校・大学に行く人”が大多数
- 現実には大学卒業してもスキルや専門性がつかず、就職先が見つからない場合も多い。
教育制度の違いから見える社会構造の違い
この入試制度や学校制度の違いが生み出す社会の風景は、フィンランドと日本で大きく異なります。
フィンランドでは、生徒は進路選択に関して専任のキャリアコンサルタント(心理学などの学位が必須)がサポートしてくれる環境と、比較的緩やかな競争の中で自身の進路を進めていくことができる印象でした。また、普段はテストがないものの高校の出口のところで高卒認定試験を設けることで一定の水準を保てる仕組みになっているのはとても良いなと感じました。
一方、日本では、生徒の進路は受験結果に大きく左右され(ると思い込まされている部分と実態としてそうだという部分の両面で)、その結果を出すための競争が非常に激しく、レールを外れることへの恐怖感が非常に強いなと感じています。
実態としては、どちらかというと社会要請の方からこの制度の違いが生まれているのだと思いますが、寒いだけでなく、陽が登る時間が短く、非常に鬱々とした気分になりやすい厳しくて長い冬のある地域で、ノルウェーのように石油資源もなく、複数の国に従えられてきた歴史からまだ独立して100年の国だからこそ、社会としてどうすれば経済成長できるかというよりも、どうすればみんなが楽しく生きていけるかにフォーカスして生きているように感じました。
2. 受験に対する社会の考え方の違い
フィンランドと日本の受験に対する社会の考え方には似ている部分と異なる部分がありました。
似ている部分
高校3年生の時に、日本では大学入試、フィンランドでは高校卒業試験という大きな試験があるという点は、フィンランドと日本の教育制度に共通する部分です。しかし、それぞれの国の受験に対する社会の考え方は大きく異なります。
ちなみに、フィンランドではそれまで学生生活にテストがなかったにも関わらず、急に高3になると”高校卒業試験”があり、これをパスしないと義務教育を終われないため、大きなストレスを抱える生徒が結構いるようでした。これは日本の大学入試とも共通しているなと感じました。
また、高校卒業試験は日本の大学入学共通テストのような大学統一の一次試験の役割もあり、そういった点でもこの部分は似ていると感じました。
異なる部分
異なるなと感じたのは、”他者との競争”や”大学選びの捉え方”の部分です。
- フィンランドの場合
- 高校卒業試験のスコアを複数の大学に提出でき、そのスコアで二次試験に進める大学から返事が返ってくる仕組み。日本の国公立のようにどこか一発勝負ではない。
- もちろん複数の大学に合格することもあるが、基本的には一番近い学校を選ぶ(実際に子供たちがそう言ってました。)
- 医学部なら6つ大学があるが、全部受かったら基本的には一番近いところに行く。医者になるのが目的だから別にどの大学でもいいし、医者は医者だから何大学出身とかあまり関係ないという社会の認識がある。
- 余談:獣医学部は1つしかないので、5浪とかする人とか獣医学部専門の予備校は存在するらしい。
- 日本の場合
- 日本では私立大学が多いので、私立への複数受験は可能だが、日本の国公立だと主に前期後期でどこか一発勝負で頑張らないといけない。
- 基本的に学生も保護者も同じ学部なら偏差値の高い学校を選びがち。偏差値の高い学校の方が良いという社会認識がある。だからこそ日本全国規模での苛烈な競争が生まれやすい。
- 医学部の例でいくと、日本だと東大の医者が一番いいよねみたいな風潮ありませんか?そのため、医学部に行ければいいのではなく、日本中の他者と比較されて私の認識としての私の立ち位置というのを嫌でも認識することになる。
この部分に関しては、教育制度としての違いよりも社会の学歴や偏差値教育に対する認識の違いが色濃く出ているなと感じました。
日本部分の捉え方については私のバイアスもかかっていると思うので、ぜひ皆様の視点でのご意見もお聞きさせていただきたいです。
3. キャリアカウンセラーの存在
学校で専任のキャリアカウンセラーとして働く方へのインタビューから、フィンランドと日本では、キャリアカウンセラーの存在とその役割にも大きな違いがあることがわかりました。
似ている部分
子供たちは日本のフィンランドも同じ。フィンランドでも、高校生になっても自分が何になりたいのか、どの道を選ぶべきなのかはっきりと決まっている子供は少なかったです。
異なる部分
- フィンランドの場合
- 学校には専任のキャリアカウンセラーが生徒200人に対して1人配置されており、生徒一人ひとりの進路について親身に考え、アドバイスを行います。
- キャリア形成が1つの科目になっており、キャリアカウンセラーの先生が他の教科と同じくキャリア教育という科目の授業をしていく。
- 日本の場合
- キャリア教育というものはあまり行われておらず、あくまで進学や就職先を選定するという目的の中で、主に進路指導教員や担任の先生が担当。その規模や質は学校により大きく異なると思いますが、あくまで教科の授業などとは違ってサブ的なタスクになっている印象。
- 実際問題、先生が進路指導にかけられる時間やリソースは限られており、個々の生徒のニーズに対応するのは難しい状況も多いのではないでしょうか。
実際のカリキュラム
高1では、日本でいう道徳教育のような授業を通して、自分という存在に向き合う習慣をつけていきます。
高2になると、グループディスカッションを中心とした形式で、様々な職業について調べていくような授業と、実際に様々な職業として働いている社会人が学校に来て、その職業について講演してくれるような授業がハイブリッドで進んでいきます。
高3では、少人数のグループで自身の進路を深めながら、キャリアカウンセラーとの1対1の面談を通して、自身のキャリア像や進学、就職先を決定していきます。
個人的に印象的だったのは、実際に企業で働いている人が複数人、毎年学校に訪れて子供たちに実際の職業や仕事についてのお話をするのがスタンダードになっているという部分でした。
キャリア教育に対する社会の認識も学校制度も進んでいるフィンランドのキャリア教育の中で、この社会人との交流が不可欠な要素として捉えられていることから、
手前味噌ですが、私たちが提供しているこの職業講演会というものが、これからの日本のキャリア教育を作っていく上で、間違いなく必要不可欠な取り組みなんだと再認識することができました。
また、授業内容自体は日本でも似たような取り組みをやっているところはあるものだとは感じましたが、それを普通の先生がプラスアルファでやるのではなく、キャリア教育担当の専門家がフルタイムで入っていて、全てのデザインしているのは非常に大きいなと感じました。
生徒からの信頼が生徒からの信頼もすごく厚く、自身の将来を考える上でキャリアカウンセラーの先生は必要不可欠だと語っていたので、フィンランドの学校教育や社会において、キャリア教育や専門の先生の存在は必要不可欠な存在として捉えられているのだと言えそうです。
日本でもこのキャリア教育の重要性を高めていくためにはどうすればいいのか、一緒に考え取り組んでいただける先生方がおられましたら、現在提供している職業講演会以外にも色々なサポートが考えられると思いますので、是非とも一報いただけると嬉しいです。
4. 職業学校の存在
基礎教育(日本でいう中学)を卒業した後に、高校と同じように半数程度が進学する職業学校では、
- 数百ある資格から好きなコースを選んで取り、企業へのインターンと学校での学びを半年や1年単位で繰り返しながら学んでいく。
- 机上の知識ではなく、実務経験が積めるので、そのまま即戦力としてその企業に就職する場合も多いそう。
- 高校と職業学校の二刀流も可。美容師になるだけなら職業学校だけでいいが、美容室を経営するところまで視野に入れるのであれば高校で経営も学ぶといったイメージ。
- 社会人も入れて、PCや工具など備品含めて無料なので、いつでもスキルを得てジョブチェンジできる。 難民の人は1年間フィンランド語を学んだ後に、資格取得コースに入れる。これも無料。
このような形で、中学卒業後、高校卒業後、社会人になってからなど、いつどんなタイミングからでも自分がなりたいジョブに就くための勉強ができるのが、フィンランドの職業学校という制度です。
ちなみに、社会人になってもいつでも職業学校にいくことができ、その学費も無料で、噂に聞いた話ではその間の生活費も一定保障されるようなので、本当にノーリスクでいつでもジョブチェンジできる社会になっています。日本にももっとレールを外れてもいい仕組みを増やしていきたいですね。
ちなみに、学校を案内してくれたこの方は、
アカウントマネージャーという役割の方。
生徒を派遣する会社や就職先の会社の斡旋のために企業との交渉等をする仕事で、日本企業だと聞き馴染みがないかもですが、外資系企業だといわゆるB2Bのクライアント営業担当をアカウントマネージャーと呼ぶので、まさにそういった職業の方が学校で働いているということでした。この学校には1人のようですが、学校に法人営業担当がいるなんて結構驚きでした。
ちなみに彼自身も就職氷河期にパソコン教室に就職し10年教えていたが、飽きて職業専門学校に行ってビジネスを学んで、今のアカウントマネージャーになったそうです。現在27年目。
5. 社会的な保守性と子供たちの自殺率
この部分は深刻な問題を扱っていますが、フィンランドと日本では子供たちの精神的な健康状態にも大きな違いがあります。
まずファクトとしてフィンランドの自殺率は高いと言われている日本と比較しても高い水準です。
フィンランドの自殺率は現在15%。これは日本の16.8%とほぼ同等の水準。
しかし、フィンランドの自殺率は1990年の30%から10年の間に20%程度まで減少し、さらに現在は15%まで落ち込んでいます。これにより、フィンランドの自殺率は確実に下がってきているということが分かります。
そして、博物館の学芸員をしていた20代前半のゲイの方へのインタビューが表層的に見えるフィンランド社会と、実態として苦しんでいる若者のリアルの差分を感じてとても印象的でした。
- フィンランドは保守的ですごく生きづらいと話していたのはめちゃくちゃ意外でした。オールジェンダートイレなどが結構な頻度で配置されていることもあり社会としての理解や配慮が根づいている印象があったが、当事者としては全然足りないんだなと感じました。
- テストがないからといって(むしろテストがないから引き上げられるタイミングがないから余計かもしれないが)、勉強ができない子供たちが生き生きしているかというとそうでもなくて勉強ができないと普通に生きづらいんですよねという話もリアルで興味深かった。
- 高卒認定試験が唯一の試験だが、義務教育が高校までなので社会に出るためには必ずパスしなければならず、結構ボリューミーでそれまでテストを経験してきてないことも相まってか、ここで行き詰まって自殺する子供たちも結構いる。周りでもちょこちょこいたんだという話もしていた。
他にも何人かの子供たちや大人へのインタビューから必ずしも表層的な幸福指標とは一致しない社会課題を挙げる方も多くおられました。統計的に有意なまとめ方には至っていませんが、事実としてそういった声が一定数聞かれたことは留意すべき点だと考えます。
このように幸福度No.1と言われるフィンランドですが、統計学的な数値だけでは測りきれない個人の感情面の課題は普通に存在していて、ここまで良いところばかり取り上げてきましたが、まだまだ課題も残されているのだなと感じました。
まとめ
“フィンランドの学校現場インタビューから見えるフィンランドの日本のキャリア教育の違い”はいかがでしたでしょうか?
そもそも社会の教育に対する認識の違いが根底にありながらも、子供たちの勉強やキャリアに対する悩みは意外と共通しているが、それらの課題に対するソリューションに対してヒトモノカネが投入され、課題はある前提でそれをどうすればなるべく解消していけるかに焦点を当てて教育制度を作っているように感じました。
キャリアカウンセラーの存在は非常に大きく、その中で社会人が学校に訪れて職業について講演するのが一般的になっていることは驚きでした。
キャリアカウンセラーの全校配置は文科省、財務省、国政や地方政治への介入が必要不可欠ですが、子供たちと社会人の距離を縮めていく部分は、私たちがまさに取り組んでいることですので、ぜひとも全国の学校に様々な選択肢を届けていく活動を先生方、企業の方、自治体や国の皆様と進めていけると嬉しいです。
また、キャリア教育以外にも先生の働き方や、授業や指導の違いも見えてきたので、次回まとめていきたいと思います。
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私が参加したのはFinland Global Teacher Programという、日本の学校の先生や先生の卵の皆さんとともに、フィンランドの学校の視察と、学校での特別授業の実施を行えるプログラムです。
フィンランドは学校見学が有償になっていたりするので、個人で何校も回るのは非常に骨の折れる作業になると思いますので、まずはツアーで訪れるのがおすすめです。
学生や先生方と毎日ディスカッションできる空間も企業で働く私にとってはとても有意義でした。
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